「潜水をしていたら、偶然、沈没船を発見、そこには莫大な財宝が……」映画では、このような設定がよくある。そして、必ず水着の美女がからんでくる。だが、このような「ロマンに満ちた秘宝発見」はもう、過去のものになっている。いや、昔も、そんな話は実際にはほとんどない。
いま、沈没船の発見は科学的探査によるところが大きい。カリブ海で沈没船ヌエストラ・セニョーラ・アトウチャ号を発見したメル・フイッシャーも「科学的探査」をした。彼は世界初のダイビング用品の販売店を経営していた。妻も世界的ダイバーだった。そこで、独創的な探査機を開発するとともに、潜水時間が55時間という世界一の記録を持つ潜水艇を借り受けた。さらに水圧で土砂を取り除くポンプも使用した。
ヌエストラ・セニョーラ・アトウチャ号は沈没して300年以上たち、厚い砂で覆われていた。これでは人手では取り除くことなどできるわけがない。もっとも、この探査には多額の資金が必要になる。そこで、出資者をつのって資金を集めた。
いわば、行き当たりばったりではなく、科学と資金を使っての探査、引き揚げだった。いいかえると、「ロマンではなく企業による事業」といった側面が強い。いや、事業そのものともいえる。それにもかかわらず、ロマンを求める人は後を絶たない。映画では財宝は発見されるが、結局は手に入らない。古代の秘宝発見の話と瓜二つだが、それでも面白い。