中国唯一の女帝、則天武后。唐の時代の初期、貞観の治という中国史上最大の善政を行った太宗の側室だった。その後、太宗の息子の高宗にも愛され、やがて「庇を借りて母屋を乗っ取る」の言葉そのままに、女帝に登り詰めた。国名を周に改め、聖神皇帝と称した。太宗の一族李氏や、その功臣を大虐殺したが、仏教には関心が高く、華厳経を大成した僧法蔵に話を聞いている。この時、則天武后に仏教について尋ねられた法蔵は近くにあった金の獅子を指し、こう言ったという。
「金は本来、獅子でもなければ犬でもない。『金が真』で『獅子が虚』だが、人はその獅子に執着する。しかし、金は獅子になっても本性は変わらず、獅子は消滅するが金は消滅することはない」
感心した則天武后は華厳経に帰依したという。だが、則天武后は本当に悟ったのだろうか。ただ、「金は獅子になっても本性は変わらない」というのは真実。法蔵の言ったことは仏教の真実をついている。
則天武后の死後、武氏一族は結局、滅ぼされた。李氏の生き残りの皇子がクーデターで武氏を一掃、国名を唐に戻した。それが玄宗皇帝である。もっとも、現在の中国では「則天武后」でも「聖神皇帝」でもなく「武則天」といっている。男尊女卑の国、中国では「女帝など認めない」ということだろうか。