史上最大の征服者チンギス・ハーン。遊牧民族モンゴル族を率いて欧亜にまたがる大帝国の素地をつくりましが、単に遊牧だけでなく通商にも力を注ぎました。その象徴に彼が造らせた金貨があります。
この金貨はイスラム歴621年に鋳造が始まりましたが、表に「チンギス・ハーン」という文字と「偉大で公正なる全世界の支配者」という文字を刻ませています。当時はまだ全世界など支配してはいませんでしたが、その壮大な気風はうかがわれます。
モンゴルがユーラシア大陸の大半を支配した時代、通商路は安全で盗賊などほとんどいませんでした。この金貨がどの程度流通したかどうかははっきりしていませんが、交易が安全だっただけにかなり流通したのではないでしょうか。もっとも、フビライの時代はモンゴル族同士が戦う内戦で危険になり、通商は制限されたのですが。
「偉大で公正なる全世界の支配者」という言葉にはチンギス・ハーン成功の秘密が隠されています。彼は戦いに負けたこともありましたが、勝ち負けよりもむしろ勢力の拡大に力を注ぎました。勝った側の恩賞が不明瞭だったため、勝った側の兵士が彼に投降したのだといいます。なぜなら当時、「チンギス・ハーンは公正に判断している」という評判が広がっていたからです。金貨の「公正」という文字は伊達ではなかったということです。モンゴル族は武力も抜きん出て強かったですが、それだけでは多くの国を支配できません。「公正こそ勝利を導く」それをチンギス・ハーンは証明しました。