19世紀末から20世紀初頭、黄金を巧みに操った画家がオーストリアにいた。それが首都ウイーンで活躍したグスタフ・クリムトである。クリムトは黄金を使った絢爛豪華な作風で知られ「黄金の画家」ともいわれた。1897年、古典的な絵画から独立しようと「ウイーン分離派」が結成され、彼は初代会長に就任した。彼の絵は象徴主義、アール・ヌーボーといわれるが、ほとんどが黄金を多用している。
クリムトは金箔職人の父を持ち、それが金を多用した絵を残したのかもしれない。中でも最高傑作といわれたのが『バウアーの肖像』。この絵は顔と胸と手以外はすべて黄金づくし。しかも、金箔を二重にしたり、盛り上げたりと、各種の技法を用いている。
バウアーの肖像は2006年、ニューヨークのノイエギャラリーに買い取られたが、その時の価格は156億円。当時、世界最高の価格で、「世界で最も高価な美人」ともいわれた。1901年に発表された『ユディット』と1908年に発表された『接吻』も強烈な印象。『ユディット』は黄金の首輪の上に美女が描かれ、『接吻』は男性に抱かれ、接吻を受ける恍惚とした表情の女性が描かれている。ちょっと、子供には見せにくい絵柄だ。
世紀末(19世紀末)のウイーン、いやヨーロッパの退廃した風俗を代表している。このころ、オーストリアはすでにハプスブルグ家の栄光に影が差し、国民は活力を失っていた。それがこのような絵画を生んだのではないだろうか。